横須賀市立総合医療センター 集中治療室の特色
横須賀市立総合医療センターの集中治療室(Intensive Care Unit: ICU)は12床を有し、特定集中治療室管理料3を算定しています。12室は全個室化しており、うち2室は陰陽圧切替個室です。
ICUでは、周術期に厳密な管理が必要な患者さんをはじめ、救急外来や一般外来から緊急入院された重症患者さん、または入院中に状態が悪化し、集中治療が必要となった患者さんを収容しています。
集中治療部はうわまち病院で2018年4月に開設され、2019年10月には日本集中治療医学会の専門医研修施設として認定されました。2023年4月からは、前・自治医科大学集中治療部教授である布宮伸医師が赴任し、集中治療専門医と特定行為研修修了看護師(以下、特定看護師)を中心に、総合診療センターや各専門診療科の医師と緊密に連携しながら、重症患者さんの診療にあたっています。
当院ICUの特徴として、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、臨床工学技士、特定看護師、入退院支援看護師など、多職種で構成される連携チームの存在が挙げられます。
毎朝9時から、ICUリーダー看護師の主導で開催される多職種カンファレンスでは、ICUで治療を受けている全患者さんの情報や、その日に実施する検査、処置、治療の内容と予定が共有されます。
職種を超えた積極的なコミュニケーションが図られ、各職種の専門的知識と能力を十分に発揮できる環境が整っています。
ICUに所属する看護師の中には、急性・重症患者看護専門看護師や集中ケア認定看護師、クリティカルケア認定看護師、集中治療認証看護師などがいます。
また、臨床工学技士や理学療法士の中には、3学会合同呼吸療法認定士の資格を持つ者も在籍しています。それぞれの職種や専門資格で培った能力をチーム全体で活かし、人工呼吸管理、人工心肺補助装置、血液浄化療法などの集学的治療に積極的に取り組んでいます。
当院のICUは、2024年4月から開始された日本専門医機構認定サブスペシャリティ領域専門研修制度において、日本専門医機構認定集中治療科専門研修施設(基幹施設)として認定されています。当院で研修を行うことで、集中治療科専門医の資格取得が可能です。また、当院は日本呼吸療法医学会の呼吸療法専門医研修施設にも認定されています。
診療実績(2023年1月~12月)
入室患者総数 | 471件 |
ICU在室日数(平均値) | 4.8日 |
ICU在室日数(中央値) | 2.9日(0.07〜53.6) |
年齢(平均値) | 73.2歳 |
年齢(中央値) | 76歳(0〜107) |
転機 | 生存442例、死亡25例(死亡率5.3%) |
APACHEⅡ(平均値) | 17.6 |
APACHEⅡ(中央値) | 16(0〜50) |
SAPS-Ⅱ(平均値) | 36.5 |
SAPS-Ⅱ(中央値) | 30(0〜112) |
SAPS-Ⅱ(中央値)予測死亡率 | 10.6% |
ICU入室患者 主担当診療科一覧

ICUへの入室患者が多い診療科(2023年)
心臓血管外科 | 198件 |
整形外科 | 62件 |
外科 | 54件 |
呼吸器外科 | 40件 |
内科 | 35件 |
循環器内科 | 35件 |
機械的臓器補助の使用状況
人工呼吸 | 231件 |
IPPV | 215件 |
NPPV | 16件 |
人工呼吸期間(中央値) | (1時間〜291.5時間) |
ECMO | 12件 |
V-A ECMO | 9件 |
V-V ECMO | 1件 |
V-A-V ECMO | 2件 |
IMPELLA | 8件(IMPELLA-CP 7件、IMPELLA-5.5 1件) |
IABP | 15件 |
血液浄化療法 | 52例 204件 |
CRRT | 46例 129件 |
IRRT | 26例 75件 |
PMX | 1件 |
一酸化窒素吸入療法(iNO) | 33件 |
ICUのカンファレンス、回診について
当院のICUでは、毎朝9時から開催される多職種カンファレンスに加えて、ベッドサイド回診や栄養カンファレンスが定期的に行われています。
多職種カンファレンス
多職種カンファレンスは、月曜日から金曜日の午前9時から約30分間開催されます。ICUリーダー看護師が司会を務め、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、臨床工学技士、入退院支援看護師が参加します。ICUに入室しているすべての患者について、現状の把握だけでなく、診療上の問題点やその日の検査、処置、治療、リハビリテーションの予定が議論・検討されます。このカンファレンスを通じて、各患者の一日の大まかな予定が決定されます。この多職種カンファレンスは、当院ICUの特徴の一つです。
ベッドサイド回診
多職種カンファレンス終了後、月曜日から金曜日の午前9時30分からは、ICU内でベッドサイド回診を行っています。この回診では、患者の状況をより詳細に評価し、血液検査やレントゲン写真などの画像検査、12誘導心電図までしっかりと読み込み、評価を行い、全身の系統的な評価を通じて、治療内容を細部にわたり決定します。ここで行われる幅広いディスカッションは、解剖・生理や各専門診療科の知識に加え、最新の論文から得られた知見まで多岐に渡り、参加者全員にとって貴重な学びの場となっています。さらに、2023年4月から参加している布宮医師の深く幅広い知識に基づくコメントは、参加者全員にとって非常に有益で、日々の診療に多くの気づきや学びをもたらしています。
栄養カンファレンス
毎週月・水・金曜日には、ベッドサイド回診の後に栄養カンファレンスが開催されます。医師、ICUリーダー看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士が集まり、ICUの全患者について栄養状態を評価し、最適な栄養レジメンを提案します。食事の摂取状況や嚥下機能の状態を参加者全員で共有し、どのような栄養療法を実施するのが最適かを検討しています。
毎週月曜日には、「重症患者の栄養療法ガイドライン」の作成メンバーである吉田稔医師(非常勤)がカンファレンスに参加しています。この場では、栄養療法のレジメンの提案に加えて、参加者に対する栄養療法のレクチャーも行われています。
倫理カンファレンス
ICUでは、重篤な病態・病状の患者を多く診療しているため、長期にわたりICUでの治療が必要となる患者や、治療方針を決定する際に倫理的な検討が必要になる患者に遭遇することがあります。そのような場合には、患者の診療に関わる多職種が集まり、倫理的な検討を行うカンファレンスを開催しています。Jonsenの4分割表を用いて患者の状況を多方面から評価し、各職種それぞれの視点からの考えを共有し、その患者にとって最適と思われる治療方針を検討します。このカンファレンスは、患者の診療に関わる医療者が「倫理的な検討が必要だ」と感じた時点で、早急に開催するように努めています。
集中治療室外での活動
病院全体でICUの機能を最大限発揮できるよう、ICUスタッフを中心に以下の院内活動を行っています。
院内迅速対応チーム(Rapid Response System: RRS)
特定看護師と集中ケア認定看護師、クリティカルケア看護認定看護師、そして集中治療部の医師が中心となり、RRSを運営しています。RRSが起動された際には、特定看護師が初期対応を行い、集中治療部を含む総合診療センターの医師と連携して診療を行います。RRSの活動を通じて、院内の患者の重症化予防および重症患者への早期治療介入を実施しています。
呼吸サポートチーム(Respiratory Support Team: RST) / 人工呼吸器ラウンド
RSTは医師、急性・重症患者看護専門看護師、集中ケア認定看護師、臨床工学技士、理学療法士・、管理栄養士で構成されています。集中治療室外で人工呼吸を行っている患者を対象に、RSTが毎週1回カンファレンスとベッドサイド回診を実施しています。安全な人工呼吸の実施と合併症の予防、そして何よりも人工呼吸器からの早期離脱を目指して活動しています。
教育活動
集中治療部は総合診療センターの一部門であり、総合診療センターと共同で教育活動を行っています。
また、特定行為研修や集中治療認証看護師の育成にも積極的に取り組んでいます。
活動内容
多施設合同ジャーナルクラブ
毎週火曜日に開催されている、J-SEPTIC多施設合同ジャーナルクラブに参加しています。
看護師勉強会
看護師は、毎週金曜日の始業時に5分間の勉強会を開催しています。また、毎週火曜日と木曜日の同じ時間には、集中治療部の医師が集中治療認証看護師試験の問題について解説する勉強会も開催しています。
ICUミニレクチャー
概ね月1回のペースで、重症患者管理に関わるすべての職種を対象としたミニレクチャーを開催しています。日常臨床での疑問点から最先端の知見に至るまで、幅広いテーマの解説を予定しています。
off the jobトレーニングも積極的に開催しています。
シミュレーショントレーニング
集中治療部の医師と看護師が協力して、ECMOの緊急導入、心臓手術後の患者へのコードハート、腹臥位療法、緊急気道確保に関するシミュレーショントレーニングを定期的に開催しています。2023年度からはImpella管理中のトラブルシューティングシミュレーションも新たに開催しています。
総合診療センターと共同で開催している勉強会
Yokosuka Uwamachi – Critical Care Seminar(YU-CCS)
重症患者管理を専門としない部署・職種や若手医師・看護師を対象とした、重症患者管理の基礎をレクチャーするコースです。心肺停止蘇生後や重症呼吸不全、急性腎傷害など、重症患者管理に必要な基礎知識を学ぶことができる機会となっています。初期臨床研修医や一般病棟で勤務する看護師、理学療法士などが受講し、多くの好評を得ています。
呼吸療法セミナー
呼吸療法は病院で多く行われる医療行為の一つです。呼吸療法は病態の評価・診断から酸素療法・呼吸リハビリテーションまで幅広い知識を必要としますが、その基礎から実践までを系統的に学ぶ機会は多くありません。
集中治療部が中心となり、臨床工学技士や理学療法士とともに、呼吸療法について学ぶセミナーを開催しています。このセミナーを通じて、病院全体の呼吸療法の質の向上を目指しています。
蘇生講習
院内職員を主な対象とした蘇生講習会として、日本救急医学会認定BLS / ICLSおよび日本内科学会認定JMECCを定期的に開催しています。これらの講習会の開催には、集中治療部が中心的に関わっています。
看護師育成のための積極的な取り組み
集中治療部では、看護師の育成とキャリア形成の一環として、集中治療認証看護師の資格取得を積極的に推奨しています。また、集中治療室では特定行為研修の実習生も積極的に受け入れています。
集中治療認証看護師の育成
日本集中治療医学会では、重症患者に対する標準的な看護を提供できる能力を持つ看護師を「集中治療認証看護師」として認証しています。
この認証により、集中治療看護の質の標準化と向上を図るとともに、集中治療に対する需要が急増するような非常事態に、集中治療看護を担う看護師の普が期待されています 。
当院の集中治療部では、看護師の育成とキャリア形成の一環として、集中治療認証看護師の資格取得を強力にサポートしています。日々の診療やカンファレンスを通じたon the job trainingはもちろんのこと、週2回開催している集中治療部医師による試験問題の解説など、off the job trainingも積極的に開催しています。
特定行為研修修了看護師の育成
当院総合診療センターには、特定ケア看護師(地域医療振興協会での呼称)が所属しています。
特定ケア看護師は「特定行為を実施する看護師」であるだけでなく、臨床推論を基に「診る」と「看る」の両面から患者さんを全人的に捉え、医療・看護を提供する看護師です。
当院ICUでは、特定ケア看護師が活躍しており、集中治療部の医師とともにICU診療の中心的な役割を果たしています。気管チューブの位置調整や人工呼吸器の設定変更、動脈ラインの確保、末梢留置型中心静脈カテーテルの挿入などの特定行為を行うだけでなく、集中治療医とともに各種のカンファレンスにも参加し、当院集中治療部にとって欠かせない存在です。
また、当院ではJADECOMアカデミーNP・NDC研修センターの教育課程に基づく特定行為実践の演習や実習が行われています。ICUでは毎年実習生を受け入れて、特定ケア看護師の育成に積極的に協力しています。
研修・見学について
取得可能資格
ICUを含む当院の総合診療センターでの研修を通じて、以下の資格を取得することが可能です。
日本専門医機構基本領域 | 内科専門医、救急科専門医、総合診療科専門医 |
日本専門医機構 サブスペシャリティ領域 | 集中治療科専門医 |
学会認定資格など | 日本呼吸療法医学会 呼吸療法専門医、 日本病院総合診療医学会 病院総合診療専門医、 日本病院会 病院総合医 |
集中治療科専門研修について
当院のICUは、2024年4月に開始された日本専門医機構認定サブスペシャリティ領域専門研修制度における、日本専門医機構認定集中治療科専門研修施設(基幹施設)として認定を受けています。
当院での研修を通じて、集中治療科専門医の資格を取得することが可能です。
集中治療科専門研修カリキュラムでは、2年間の研修期間中に経験すべき25項目60例以上と経験することが望ましい項目19項目のうち20例以上を含んだ合計80例以上の症例を経験し、20症例のレポートを作成することが必要になります。
集中治療科専⾨研修カリキュラム



当院の集中治療室では、上記の病態・疾患・処置のほぼすべてを経験することができます。
また、当院集中治療部は総合診療センターの一部門であり、ICU外での診療として、救急外来での診療や総合内科・総合診療科チームの入院症例も経験することができます。
2年間の集中治療科専攻医の研修期間中には、ICUでの診療を中心に、時には救急外来や一般病棟などICU外での診療も経験できるため、上記の病態・疾患・処置は2年間の研修期間でほぼ全て経験することが可能です。
当院ICU診療実績は前記をご参照ください。
総合診療センターにおいて、総合内科・総合診療科の年間入院患者数は1,000例を越え、救急外来受診患者数は年間8,610例(うち、救急搬送5,451例)となっています。
ICUに加え、総合内科・総合診療科・救急外来を同一部門で運営している当院だからこそ、多様な症例を経験し、充実した専門研修を行うことができます。
上記資格の取得を目指す専攻医プログラムへの応募や、当院での短期研修、または当院総合診療センター集中治療部へのご参画をご検討いただける方は、総務課 人事係までご連絡ください。随時ご相談を受け付けております。
横須賀市立総合医療センター 総務課 人事係
TEL0570-032630(代表)
採用情報
採用情報についてはこちらからご確認ください。
スタッフ紹介

部長
布宮 伸
主な担当
集中治療全般
専門分野、資格など
日本麻酔科学会指導医、日本集中治療医学会集中治療専門医、呼吸療法専門医

部長
岩澤 孝昌
主な担当
虚血性心疾患、心不全、肺高血圧症
専門分野、資格など
日本循環器学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、
日本病院会認定病院総合医、難病指定医、
身体障害者福祉法に基づく指定医(心臓機能障害)、
平成26年度神奈川県自治体病院開設者協議会病院職員表彰

救急総合診療部 兼任
内倉 淑男
主な担当
内科、救急、集中治療、総合診療、プライマリ・ケア
専門分野、資格など
日本救急医学会救急科専門医、日本集中治療医学会集中治療専門医、
日本内科学会認定内科医、日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医、
日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医、
日本病院総合診療医学会認定医、 日本腹部救急医学会認定医、
日本病院会病院総合医、臨床研修指導医(厚生労働省)、緩和ケア研修会修了、
日本救急医学会ICLSインストラクター・コースディレクター・指導者養成ワークショップディレクター、日本内科学会JMECCインストラクター

小児科 兼任
鈴木 純平
主な担当
小児救急、小児集中治療、小児科一般
専門分野、資格など
日本小児科学会専門医

非常勤医師
吉田 稔
主な担当
救急、集中治療、循環器、臨床栄養
専門分野、資格など
日本集中治療医学会集中治療専門医、日本救急医学会救急科専門医、
日本循環器学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、
日本内科学会認定内科医、日本臨床栄養代謝学会認定医、
CVIT(日本心血管インターベンション治療学会)認定医、
日本栄養代謝学会 評議員、日本栄養代謝学会首都圏支部会 世話人、
日本版重症患者の栄養療法ガイドライン検討委員会 委員、
神奈川急性期栄養管理研究会 世話人、離床学会医師部会 委員、
緩和ケア研修会終了、TNT研修会終了

非常勤医師
庄野 敦子

特定ケア看護師:診療支援部 兼任
上田 匠哲
専門分野、資格など
看護師特定行為研修21区分38行為修了